おじさんたちの連休
おじさん達は,雨が降る日,風が強い日はセーリングに出ない。クルージングに出る目的は,冒険をしようとか,人生の教訓を得ようと言う崇高なものはない。ただ,楽しむために出るのである。

だから冬の寒い時も当然出ない。そのおじさん達にとって5月の連休は,気候的には申し分なく何ケ月ぶりかでクルージングの計画を立てる。 1泊で行ける行程を考えと目的地は,おのずと

的矢湾(三重県)の安乗となる。過去2度訪ねた勝手知ったるコースである。的矢湾というと渡鹿野島(風俗業?)を思い起こすのは不謹慎である。我々は同じ的矢湾であるが泊は,島でなく半島の安乗である
          。
  行程は
 9:00           12:00          16:00 泊
 形原漁港 ──── 伊良湖沖 ──── 安乗 (大洋荘泊)
  (34マイル)
  9:00出港予定であったが,準備に手間取り9:10の出帆。

  風は北西の風で5月なのに冬の風である。しかも,昨日の低気圧の通過の余波か風はか  なり強い,いつもならここで躊躇する

 ところであるが,目指す安乗にはこの風はアビーム  となり最高の風向きである。それに今日は,レーシング艇のベネトウ(フランス製)のオ

  ーナーの八木さんが一緒だから格好いい所をみせる!!。
 
 「ベネトウ」と言えば,泣く子もだまるフランス製の高級ヨットである,おじさん達の  憧れのヨットだ。おじさん達が乗っているカタリナヨット

を車に例えるならさしずめ大衆  車のカローラである。ベネトウは,高級車のベンツである。それもレーシング艇とくれば, オープンカーのクーペ
 
(的矢湾の夕焼け)                    
                                 である。セールもアメリカズカップ艇が使っているあの茶色をしたケプラー製に違いない。  カタリナヨットもセールをケプラーにしたいが腕とお金が伴なわない。      

(それなら,色だけ茶色にして遠目では,ケプラーに見えるように・・・・・と考える見栄を張るおじさんが若干1名いるのもようだ…)     (雨にも風にも強いドジャ)

  しかも八木さんは,パールレースに何度も出場した兵だ。 それも,GPSとか魚探とか無線機のない時代にからの参加でである。ハンドコンパスと海図が唯一のアイテム。頼るは水平線と星と己のみと言

うロマンあふれる方である。三河湾内でもGPSに頼っている軟弱なヨット乗りとは違うのである(誰のことかな!) さて,気持ちよく形原港を出たものの西浦半島を越すまでは風向が安定せずそのつど,セールをトリムする。

いつもは,こんな面倒なことはしない。八木さんを意識してちょっと頑張ってみる。(もともとカタリナヨットはクルージング艇で,こんなことをしてもスピードはほとんど変わらないのであるが・・。)

 西浦半島を越してからは,安定した北西の風が吹き,30度程度のヒールを保ち安定した走りである。6〜7ノットの快走である。カタリナもベネトウを意識してか,いつになく頑張っている。おじさん達もいつもなら,

オートラダーに任せてろくに前も見ないのだが、年長の河井さんが今日はきちんとラットを握ってコースを細かく修正している。(久しぶりに乗ってその緊張感を楽しんでいると善意に解釈しよう。)

伊良湖岬に近付くにつれて風が強くなり,しかも前に振れ,登りぎみになってくる。風下に下るとその後の登りがきつくなるので,神島の右を通過したかったが,登りきれず左を通ることが余儀なくされた。

 三河湾の出口の伊良湖水道の波の悪さと 気まぐれな風には,いつもの悩まされる。さらにそこに,本船が通過する。ただでさえ船足の遅いヨットでは,エンジンと帆で必死の思い出通過するはめになる。

今回もその例にもれなかった。が,その後が 違った。神島通り過ぎてころから,波が治まり,うねりもなくなった。風向も北西にもどり,しかも風の強さは8M前後で安定している。最高のコンデションである。

気分がよくなって,ケンケンを流す。初鰹がかかることを期待して・・釣果は?(餌もない針にかかる魚は伊勢湾にはいない!)(潮騒で有名な観的廠)

 的矢の近くは,魚も捕れるがヨットはもっと捕れる定置網が岸からクシのように何本も並んでいる。定置網の経験(?)豊かな河井さんの判断で無事通過。

 形原港から出てから一度もタック,ジャイブもせず,安乗湾についたのが,2時10分である。何と5時間余りで着いてしまった。新記録だ。

 旅館に行くには少々時間が早過ぎるので,渡鹿野島を一周する。多くの観光旅館が島を覆っている。連休だというのに,どこもお客の姿が見あたらない。

 ポンツーンのある島の旅館を見つけるたびに,次回はあそこがいいだの,この島に別荘を建てたいのだと,はしゃいでいるおじさんがいるが,下心は見え見えである。「年を考

えたら」と若い私がそれとなく諌める。(くどいようであるがおじさんの中では私が最年少である。) ヨットにとって一番難しい技術は,実は帆走でなく係留する
ことである。それも漁港に内緒に留めるとなると一筋縄
ではいかない。おじさん達はレースには自信がなくてもこれだけでは自信がある。しかも,

今回は漁港に許可を得ているので気分は楽である。それでもアンカーロープが漁船にひかからないように,大きめのモニターつけて沈める。

連休の二日前に大洋壮に宿泊の予約を申し込んだので,断られると思っていたが,4年前のこと     

(安乗漁港に係留のカタリナヨット を覚えていてくれ気持ちよく引き受けてくれた。

 しかし,着いてびっくり,連休だというのに宿泊客は我々の4人だけである。経済企画庁が「回復の足取り・・・・見られる」とか言っても,ダメであ

る。世の中はこんなに不景気なのである。大洋荘が潰れたら,おじさん達の楽しみが減ってしまうのではないか。

どうしてくれるんだ。

一番上等の部屋(だと思う)で,伊勢エビ,ヒラメ,あわび,さざえなどをふんだんに出してくれ,精一杯もてなしてくれた女将に感謝している。魚

に詳しい小笠原さんが褒める魚介類だから本物であろう。(私は,残念ながらカレーもヒラメもタイも料理されれば,味では区別できない)

 帰りに丁寧に土産までいただいた。来年の連休も来ようと,おじさん達は決めたが,正直来年までこの旅館がもつのか心配である。
 
三河湾から,適当な場所であり,美人の女将のいるここを皆なにぜひ宣伝したいと思っている。

 帰路も風に恵まれ予定の時間よりも1時間もはやく着いてしまった。八木さんに「カタリナヨットもベネトウと比べて走りは遜色ないですね。」とお世辞と言われて気分を良く

している単純なおじさん達である。(カローラがいくら頑張ってもベンツに勝てるわけがないのだが・・・)
(安乗灯台 なぜか四角柱)