三 河 湾 ひ と り ぼ っ ち    

(おじさんがディンギーで頑張っていたころの話である。)
1, ヨットレースにでよう
海岸線を風のまま走らせるのはちょっと物足りなくなった。それに腕もそれなりに自信もついてきた。!!ちょっとは変わったことをやりたいな。そんな折りハーバー内の

案内板に「
蒲郡長距離ヨットレース」の広告を見つけた。

そうだ,これはおもしろそうだぞ。これにチャレンジしよう。どうせやるなら長いレースのほうがおもしろい。そこで、大胆にもこのレースに挑戦することにしたのだ。とは言って

もヨットレースのルールなんてものは、ひとつも知らない。

第一スタートはどうしてやるのだろう。ヨットは、波や風があるから海上ではうまく停止できない。だから、陸上競技のように「
位置についてヨーイドン」とはいかないだろうし・・・

海ではチョークで線も引けないし・ ・・。
人に聞くのも恥ずかしいので、しかたなくルールブックを買い求める。

航路の優先順位、マーク旋回のルールから始まってスターボード、ポートタック、ラフ、ベアリング等意味不明の用語とルールが出てくる。

遊びにまで勉強では、疲れるなあ。


でも、その勉強のかいあって、スタートの方法だけは理解した。簡単なもんだである。要するに
蒲郡競艇と同じだ。

時間をみはらかってスタートラインに向かって走り、スタートの号砲がなった時、スタートラインから飛び出ていなければよいのである。

これならよく知っている。彦坂、野中の名選手(ちょっと古いか,今なら服部,市川かな)のスタートを見て勉強代をしっかり払っているのだから、0秒発進でも可能というもんだ。

スタートさえできれば、あとは何とかなるだろう。万が一にも先頭になるわけないのだから、みんなのあとをついて行けばいいさ。

2,レース当日

コースは蒲郡ヨットハーバー前をスタートして東に走り、下水処理上の沖でターンし、田原沖の姫島に向かう。そこから三河大島に向かい、元のハーバー

に戻ってくるコースである。距離は約22KM、制限時間は5時間である。当然のことながら、ヨットは風上に向かっては走れないので、実際に帆走する距離は30KM

くらいになろう。ヨット(ディンギー)の速度は5〜10KMだから、うまくいけば3時間だ。

最悪の場合は6時間になる計算だが、
その時は潔くリタイヤしよう。

レースの準備と言っても、弁当だけである。地図もコンパスの不要だ。皆の
あとをついて行くのが唯一の航法なんだから。ただ、弁当はやっかいであり惨めでもある。

全長4M足らずのディンギーでは、常に沈(転覆)を念頭におかなければならない。だから弁当をそのまま積んでおくと塩漬けの弁当になってしまう。

いや、流されてしまうハメになる。

ただせ,暑いのにラップで完全に包み防水おにぎりして、マストにしっかりくくりつける。

3,クルーのミーティング

これに参加するが、内容は残念ながらよく理解できない。でもいいさ、スタートの方法は知っているし、皆のあとについていけばよいのでしょう。けれど、このミーティングで、いやがうえにも雰囲気は盛り上がり、

やる気に満ちてきた。

4,全艇、海上に出てレースの準備
この時になって周りの艇を見て焦る。オリンピックや国体のレースに出場しているレーシング艇の470、FJ、スナイプ等ばかりだ。我が艇「シーマーチン」のように遊びを目的としたヨットとはまるで違うのだ。

軽自動車でスポーツカー
と競争するようなもので,

なんかペテンにあったような気分だ。しかし、ここまできてもう引き返せない、やるのみ。・・先程の自信はどこえやら!・・。

10時00分・・・・スタート

とにかく停止することが走ることより難しいヨットだから、スタート時間までスタートライン(?)からつかず離れずに旋回する。スタートの狭い海域に55艇もいるので、接触しなように操船するのは思いのほかに難しいものだ。

けれど、運よく風上の良いポジションを確保できた。

スタートの号砲。

「よし、うまくスタートできた。0秒発進だ。」「蒲郡競艇で学習した成果だよ。」

まさに順風満帆である。気分は最高,順位も10番以内である。走れ「シーマーチン」・・・・・・


しかし,気持ちよく走れたのは始めの数分だけであった。さすがというか,当たり前というか,他の艇がどんどん追い越していく。セイルを締めたり緩めたり,艇の向きを変えたりして,

あらゆる技を駆使するのだがまるで通じない。腕が悪いのか,それとも艇の性能が悪いのか・・・・・。


10分後,すでに順位は30〜40位に落ちている。我々の所だけ風が避けているとしか思えない。順風満帆は取り消しだ。

やっとのことで第一マークに達する。既に後ろに見えるのは3艇のみになり,先頭の艇ははるかに先で影,形すら見えない。

マークを旋回して姫島に向かう。これからは向かい風だ。ヨットは風に向かっては走れないので,右か左に45度斜めのに進むことになる。大部分の艇は右にタックしている。

このままではドベは目に見えているので,思いきって左にタックして,一か八かに賭けることにする。
話の世界では,これが幸いしてとなるべきのだが・・・現実は

5,誰も見えなくなった

しばらくし一人悠悠と走っていたのは好かったが,遅いうえに何しろみんなと90度反対方向に行っているのだから,他の艇は全く見えなくなってしまった。

そのうえ第2マークも見えない。これでは,どちらの方向に進めばよいのか分からない。さらに向かい風でスピードもでない。いらいらするばかりでオールで漕ぎたくなった。

オールがルール違反ならばた足ならいいだろうとくだらないことさえ考える。

第1マークを回って既に1時間30分,タックを繰り返して姫島方向に向かっているものの第2マークは依然見えない。みんなの後をついて行けば何とかなるだろうとの考えは甘かった。

何ともならなくなったふてくされてさらに30分走り,やっとの思いで姫島の近くに到達する。けれど肝心の第2マーク未だ見えず・・・・。

ヨットの上に立ち上がって水平線上を見る。

しまった!,第2マークは姫島よりず〜と右だった。なるほどこれで分かった。他の艇が第1マークで右にタックした理由が・・・ 船足の遅い上にコースの取り方を間違えては,踏んだり蹴ったりである。

辛うじて第2マークをクリアーする。すると,
本部船が待ち構えていたように,マークのブイを撤去しにきた。係の人も遅過ぎて待ちくたびれたのであろう。何とも情けないレース展開になってきた。

6,それでも海面を滑るように走り
それでも,ここからはアビーム(横風)で,ヨットにとって最もスピードのでる風向きだ。それと,これからはスタートのヨットハーバーに向かうコースであり分かりやすい。先程のノロノロスピードがうそみたい。

海面を滑るように走る。ヨットはこうでなくちゃ。

ヨットハーバーは遠くに確認できるようになったが,ライバル艇は,離れすぎて全くみえない。けれどヨットは
快適に走り,三河湾を一人じめしているようで,気分は次第によくなってきた。

さて,弁当にしますか。海水のきいたおにぎりには,麦茶がよく合う。

もうヨットハーバーは目の前である。第3マークも見えてきた。さすがにここまで来ると,(レースに参加していない)ヨットでにぎやかである。その間を巧みに(?)すり抜けて,第3マークも無事クリヤーする。

よし,ゴールはもうすぐだと喜んだのは,またまた甘かった。いくら目をこらしてもそれらし物(本部船)は見えない。いつか雑誌で読んだ,「ゴールは風上に向かった設置される。」を思いだし,

自信はないがとりあえず,風上に向かって走らせる。


7,一人ぼっちのゴール
「ゴールはどこだ。」「どこにも見えないぞ。」「しかたないこれまでか、リタイヤするか。」「それでもなあ、もう少しこの方向に行ってみようか」「海の上では聞く(相手)もいないしなあ〜。」

「あ〜あ、いつになったらゴールできるかな。」「何か浮いているぞ。」

「旗が見える。ブイも見える・・・・・あれがゴールだぞ。」


やっとの思いでゴールイン。ドベもドベ、なにしろ競争相手は全てゴールし、海面上には何も見えないという立派なドベである。情けない。

13時30分,ゴール。その時,本部船がきまりなのか
同情してか汽笛(?)を鳴らしてくれた。所要時間3時間30分,とにかくゴールできた。

8,奇跡が起きた
わずかな参加賞が欲しくて表彰式にでる。順位は言われなくても分かっている,ドベだ。ところが奇跡が起こった。55艇参加したうち,順位は何とも53位であった。

バンザイ!ドベではなかったのだ。

ヨットレースは,各艇の条件を同じにするために,ヨットの性能に応じてハンディが与えられる。我が艇は小さいのでそのハンディがいただけるそうだ。

その計算結果が53位。1艇は途中でリタイヤしたそうで,ブービー賞だ。参加する前から覚悟していたものの,こんなみじめな結果になるとは・・・・

成績の悪い子が,悪い成績をとった時の気持ちが痛いほど分かる

先日,故石原裕次郎を偲ぶヨットレースが行われたが,何百隻ものクルーザー(大型ヨット)が集まったというから驚きだ。あんな豪華なクルーザーを買えば,ギャルと一緒に乗れるに違いない。(もてないオジンのひがみ?)

貴重な「
ひとなつの経験でした。



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